現在、インドネシアではデング熱が流行しています。この感染症は、蚊によって媒介され、感染後3~7日後に発熱や筋肉痛等の症状が現れます。特にリスクのある層(高齢者、子供、旅行者など)では注意が必要です。この記事では、最新の流行状況や予防策、現地での注意点を詳しく解説します。
インドネシアは旅行先として人気がありますが、デング熱に関する知識が不足していると危険が伴います。ここで、そのリスクを避けるための知識を得ることが重要です。
なお本記事は、信頼性が確保されるよう公的機関であるWHO(世界保健機関)や米国CDC,インドネシア保健省ホームページ、国立感染症研究所からの情報を引用して作成しています。
私は薬剤師です。国立感染症研究所で感染症疫学を学んだ後、輸入感染症の症例が多い病院で勤務しています。感染症を引き起こす病原体の臨床研究にも関わらせていただいております。感染症の情報を発信することで私自身も勉強させていただきます。
インドネシアでのデング熱最新状況
感染者数、死亡者数の最新データ
2024年には、インドネシアでデング熱の発生が急増しています。
2024年4月30日時点で88,593人の患者が確認され、621人が死亡しており、2023年の同時期の約3倍となっています。
次のグラフは年別のインドネシアにおけるデング熱症例数と死亡者数を示したものですが、2024年は4月の時点ですでに前年の感染数及び死亡者数に迫っており、2024年に発生が急増していることがわかります。
グラフデータは、CNBCindonesia(https://www.cnbcindonesia.com/research/20240318105938-128-522803/awas-ancaman-dbd-intai-ri-kasus-kematian-tembus-ratusan-jiwa)より引用し、当サイトでグラフを作成
デング熱はインドネシアの公衆衛生上の問題であり、インドネシアの蔓延率は東南アジア諸国の中で最も高いものの一つです。
次の表は、インドネシアから帰国した方でデング熱を発症した患者の数です。2024年に入ってから、日本人でも感染者が増加していることがわかります。
表は国立感染症研究所が作成した資料(https://www.niid.go.jp/niid/ja/dengue-m/690-idsc/6663-dengue-imported.html)より抜粋
感染が広がっている地域や都市の名前
次の地域で感染者数が多いようです。
感染者数が多い:タンゲラン県、バンドン市、バンドン県、レバック県、デポック県
死者数が多い:バンドン県、ジェパラ県、スバン県、ケンダル県、ブカシ市
グラフデータはこちらの記事(https://goodstats.id/article/capai-475-korban-ini-kabupaten-kota-dengan-kematian-akibat-dbd-tertinggi-2024-AGwq8)から引用し、グラフは当サイトで作成
地域の特徴は次のとおりですので、近くに行く際は特に注意が必要です。
地域名 | 地理的特徴 | 旅行者の訪問 |
---|---|---|
バンドン県 | バンドン県は西ジャワ州に位置し、バンドン市を囲む地域です。山岳地帯が広がり、涼しい気候と美しい自然が特徴です。火山や温泉地があり、観光スポットとしても知られています。 | バンドン県は、旅行者に人気のある観光地です。特に、タンクバンプラフ(火山)やカワプティ(白い湖)などの自然景観が有名で、多くの旅行者が訪れます。 |
ジェパラ県 | ジェパラ県は中部ジャワ州の北部に位置し、海岸線に面しています。カリムンジャワ諸島が属しており、美しいビーチと海洋公園が魅力です。また、ジェパラは木彫りの工芸品で有名です。 | ジェパラ自体は観光地としてはあまり有名ではありませんが、カリムンジャワ諸島はダイビングやシュノーケリングを楽しむ旅行者にとって人気の目的地です。 |
スバン県 | スバン県は西ジャワ州に位置し、農業が盛んな地域です。海岸線と山岳地帯が共存しており、温泉地や美しい滝があります。 | スバン県は、温泉や自然を楽しむために訪れる旅行者もいますが、観光地としては比較的マイナーです。 |
ケンダル県 | ケンダル県は中部ジャワ州の北部に位置し、海岸線に面しています。主要な経済活動は農業と漁業です。地域は緑豊かで、いくつかの自然観光地もあります。 | ケンダル県は観光地としての知名度は高くありませんが、隠れた自然の美しさを求める旅行者が訪れることもあります。 |
ブカシ市 | ブカシ市はジャカルタの東に位置し、インドネシアで最も人口密度の高い都市の一つです。都市化が進んでおり、商業施設や住宅地が広がっています。 | ブカシ市は観光地としてはあまり訪れませんが、ジャカルタへのアクセスが良いため、ビジネスや通過点として利用されることが多いです。 |
デング熱とは?リスクと症状について
次の内容は、WHOのデング熱ファクトシート(科学的根拠に基づき作成された資料)を翻訳し掲載しています。
感染症の概要
デング熱は、感染した蚊に刺されることで人間に感染するウイルス感染症です。
現在、世界人口の約半数がデング熱の危険にさらされており、毎年1億~4億人が感染していると推定されています。
デング熱は世界中の熱帯および亜熱帯気候の地域で発生しており、主に都市部および準都市部で発生します。
感染経路
デングウイルスは、感染したネッタイシマカ(Ae. aegypti または Ae. albopictus)に刺されることによって人に感染します。
- ネッタイシマカ属の蚊は昼夜を問わず刺すことがあります。
- 蚊はデングウイルスに感染した人を刺すとデングウイルスに感染します。感染した蚊は刺すことで他の人にウイルスを広める可能性があります。
- 妊娠中にデングウイルスに感染した人は、妊娠中または出産時に胎児にウイルスを感染させる可能性があります。
潜伏期間(感染してから発症するまでの期間)
デング熱の症状は通常、刺されてから数日以内に現れますが、発症するまでに最大 2 週間かかることもあります。
症状
デング熱に感染しても、症状が現れる人はほとんどいません。
しかし、症状が現れる人の場合、最も一般的な症状は高熱、頭痛、体の痛み、吐き気、発疹です。ほとんどの人は 1 ~ 2 週間で回復します。
症状が現れた場合、通常は感染後 4~10 日で始まり、2~7 日間続きます。症状には次のようなものがあります。
- 高熱(40°C)
- ひどい頭痛
- 目の奥の痛み
- 筋肉や関節の痛み
- 吐き気
- 嘔吐
- リンパ節腫脹
- 発疹
リスクが高い人
- 妊娠している人
- 一度デング熱に感染したことがある人
デング熱は、胎児の死亡、低出生体重、早産などの有害な影響を及ぼす可能性があります。
また、2度目に感染した人は、重度のデング熱を発症するリスクが高くなります。デング熱の重篤な症状は、多くの場合、熱が下がった後に現れます。
- 激しい腹痛
- 持続的な嘔吐
- 呼吸が速い
- 歯茎や鼻からの出血
- 倦怠感
- 落ち着きのなさ
- 嘔吐物や便に血が混じっている
- とても喉が渇いている
- 青白く冷たい肌
- 体が弱っているように感じる。
このような重篤な症状のある人は、すぐに治療を受ける必要があります。重症の場合、デング熱は致命的となる可能性があります。
デング熱の予防策と現地での対処法
次の内容は、WHOのデング熱ファクトシート(科学的根拠に基づき作成された資料)を翻訳し掲載しています。
感染予防のための具体的な対策
以下の対策を講じて蚊に刺されないようにし、デング熱にかかるリスクを減らしましょう。
- できるだけ体を覆う服(長袖、長ズボン)を着用しましょう。
- 日中(夜も)に寝る場合は蚊帳(できれば虫除けスプレーをかけた蚊帳)を使用しましょう。
- 窓は解放せず、網戸を使用しましょう。
- 蚊よけ剤(DEET、ピカリジン、IR3535を含む)を使用しましょう。
虫よけ剤は、科学的検証により有効性が示されており、安全なものを選ぶ必要があります。
アメリカ疾病対策センター(CDC)は、科学的検証により有効性が証明され、皮
膚や衣服に使用することをアメリカ環境保護庁(EPA)により認可された次の有効成
分を含む製品を推奨しています。
- イカリジン(ピカリジン)
- ディート
両成分を含む製品は日本でも発売されていますので、虫よけ剤を購入される際は成分の確認をおすすめします。
イカリジンは、2015年に日本でも認可されました。比較的使用歴の浅い成分ではありますが、有効性と安全性は科学的に検証されております。肌に優しく、皮膚刺激やアレルギー反応のリスクが低いとされています。敏感肌の人や子供にも比較的安全に使用できます。なお、イカリジンの効果は4〜8時間持続するとされており、臭いも無臭で使用感が良いとされています。
ディートは最も広く使用されている虫よけ成分であり、蚊やダニ、ノミなどのさまざまな昆虫に対して強力な効果を持っています。高濃度のディートは、皮膚刺激やアレルギー反応を引き起こす可能性があるため、敏感肌の人や幼児には注意が必要です。また、プラスチックや合成繊維にダメージを与えることがあるため、使用時には注意が必要です。また、少し独特な臭いがします。(【参考】ディートに関する厚生労働省通知 https://www.mhlw.go.jp/topics/2005/08/tp0824-1.html)
個人的にはイカリジン配合の虫よけ剤を使用しています。使用して蚊やダニに刺された記憶はなく、使用時の臭いやべたつきに不快感もありませんでした。
現地での緊急時の対応策
ジャカルタ首都圏の医療機関の情報を1つ抜粋して掲載します。他の都市の医療機関の情報は、外務省のサイト(https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/medi/asia/indonesia.html)が参考になります。
タケノコ診療所 スディルマン本院
所在地:Sahid Sudirman Residence, Jl. Jend. Sudirman Kav.86, Jakartaサヒッドスディルマンレジデンス内1階(ロビー)ミッドプラザ1、アヤナホテル近く
電話番号:(021)-5785-3955(代表) (021)-5785-3958(日本語)
ホームページ:タケノコ診療所 スディルマン本院(英語)
概要:年中無休で対応できる診療所を含め、国内計7カ所のクリニックを持つ医療グループで、当地で20年の診療経験があります。ジャカルタ地区、チカラン地区、バリ地区、全ての診療所で日本語が通じます。診療はインドネシア人の総合診療医が行いますが、日本での研修を受けた医師もいます。一部診療所では、総合診療の他に歯科・理学療法も併設しています。
診療科:総合診療、歯科、理学療法(リハビリ)
診療時間:年中無休8:00~20:00(新型コロナのため診療時間短縮中)支払方法:海外旅行保険、各種保険適応あり、国民健康保険書類作成可能
現金、クレジットカードにて支払い可能 (VISA、Master、JCB)
※こちらの情報は外務省のサイト(2024年8月17日時点)より引用しています。
デング熱はインドネシア語で、Demam berdarah(DB)(ドゥマン ブルダラ(デーベー))といいます。
旅行者が持っておくべきもの(例:常備薬、予防グッズ)
上記予防策をとるために次のものを忘れずに現地にもっていきましょう。
- 虫よけ剤(イカリジンまたはディート含有)
- 長袖長ズボン(明るい色が虫を寄せ付けにくいとされています)
- ポータブル虫よけシートや蚊帳
- 抗ヒスタミン剤(もし蚊に刺された場合に備えて。かゆみや腫れを抑えることができます)
- 蚊取り線香や電気蚊とり器
インドネシアへの旅行を考えている方へ
インドネシアでは2024年、デング熱の流行が見られます。
デング熱は雨季に感染例が増加するとされているため、その時期を避けて旅行されることをおすすめします。
雨季以外でも当サイトで紹介させていただいた予防策を徹底されることをおすすめします。
デング熱に感染したかもしれないときは
もし、蚊にさされ、発熱等の症状がみられた場合は、まずは慌てずに次のとおりに対処してみてください。
- しっかり体を休める
- 水分をたっぷり摂る
- 痛みや発熱がある場合には、アセトアミノフェンを含有する医薬品を使用します。
- イブプロフェンやアスピリンなどの非ステロイド性抗炎症薬は避ける。
- 重篤な症状に注意し、何か気づいた場合にはできるだけ早く医師に連絡してください。
インドネシアにおけるデング熱の今後と対策のまとめ
インドネシアでは2024年に入ってから、デング熱の流行が見られます。
デング熱の流行はインドネシアだけではなく、2024年世界中で見られています。
流行が収束する兆しはまだまだ確認できていないため、渡航される場合は感染予防対策の徹底をお願いします。
デング熱に関する情報サイトリンク集
WHOデング熱ファクトシート:https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/dengue-and-severe-dengue
国立感染症研究所 デング熱:https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ta/dengue.html
外務省 世界の医療事情:https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/medi/asia/indonesia.html
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